22:反抗期
がっしゃん、と。
キッチンからお皿の割れる音がした。
慌てて博が部屋に駆けつけると。
快彦と昌行が睨みあっているところに遭遇する。
「ふざけんなよ」
「ふざけてなんかいねぇよ。俺はただ家の手伝いくらいしろっつっただけだ」
ただでさえ多い家族。
それに親がいない状態で。
昌行と博が店に出ているために、人手が足りない。
小さな双子と准一の世話をするのは快彦の仕事だろう、と。
確かに昌行の言うことは正しかった。
しかし。
その言葉に快彦は唇を尖らせる。
「俺だって遊びたいんだよ!」
友達から誘われる度に断ってるから付き合い悪いって言われてるんだ、と。
そう、快彦は食ってかかった。
「人は人。ウチはウチだ」
「そんなの変だよ!」
「どこがだ」
「・・・どうして俺が遊んじゃダメで友達は遊んでもいいんだよ?!」
涙目で抗議する快彦に、昌行はどうしてもだよ、と言い放つ。
あんなんじゃよっちゃんが納得するはずないのに、と博はため息をついた。
説明を代わろうと傍に寄った時。
「手伝いなんていいだろ別に!俺はこのウチの子供じゃないんだからっ」
と、快彦が叫んで。
瞬間、昌行の表情は一変した。
つかつかと彼に近づき、胸倉を掴んで持ち上げる。
小さな快彦は簡単に昌行に捕まってしまった。
「快彦」
「・・・ぁんだよ」
「お前もういっぺん言ってみろ」
「・・・・・・」
「もういっぺん同じこと言ってみろっつってんだろーが!!!」
がくがくと乱暴に快彦を揺さぶる昌行を止めようと博が中に入る。
「ちょっと昌兄、止めなよっ」
「うるせぇ!!コイツには言ってもわかんねーから一発ぶん殴ってやる!!」
「まっ・・・・」
言葉を言い切らないうちに昌行の拳は快彦の頬に飛んでいた。
小柄な彼はその衝撃に耐え切れず、飛んで尻餅をつく。
昌行がここまで怒ったのは初めてだったから。
快彦も博も呆然とした表情で、荒い息をしている昌行を見つめていた。
「お前は「ウチ」の子だ。だから手伝いしろ」
それだけを言い捨てると、昌行はつかつかとキッチンから出ようとした。
仕事はまだ残っている。
「昌兄・・・」
「頭、冷やしてくるだけだ。すぐ戻る」
「・・・・・・」
すれ違った博の不安そうな瞳に、昌行は少し戸惑いを含んだ顔をして。
「快彦、頼む」
と、肩を叩きながら呟いた。
それにこくんと頷いてみせると、昌行はそのまま足を進めた。
快彦を一度も見ないままで。
博は昌行の背中を見送り、快彦の方に向き直る。
呆然としたままで座り込む弟。
目線を合わせるようにして博も向かい合わせに座った。
「よっちゃん」
名前を呼ぶだけでびくり、と肩が震える。
よっぽど昌行が怖かったのだろう。
頬には涙の筋が出来ていた。
博が髪の毛をそっと撫でると、快彦がぎゅうっと抱きついてくる。
「俺、俺・・・」
「うん」
「俺、遊んじゃいけないの?」
「そんなこと言ってないよ」
「でも、昌行くん・・・」
「昌兄が怒ったのはそのことじゃない。よっちゃんがウチの子じゃないって言ったからだよ」
言うと、あ、と声が漏れる。
その言葉はこの家の中ではタブーになっていた。
特に昌行は過剰に反応するから、言ってはいけない言葉だったのに。
「・・・・ひっくん」
「知ってるよ、わざとじゃないのは。思わず出ちゃったんでしょ?」
問えばこくんと頷く。
「俺、後で昌行くんに謝る」
「うん。それがいいよ」
「でも、遊びたいんだ俺」
家の手伝いはしなきゃいけないとは思う。
でも、遊びたい気持ちもある。
快彦はもうどうしたらいいのかわからなかった。
博はそんな快彦を見て、少し考えてから尋ねる。
「よっちゃんは、剛、好き?」
「うん」
「健は?」
「好き」
「じゃあ准一は?」
「もちろん好きだよ。何で急に?」
わけが分からず、首を傾げる快彦に。
笑みを浮かべて博が微笑む。
「好きだったら、いいんだ」
「??」
「だって、好きな相手とはたくさん遊びたくなるじゃない?」
それでいいんだよ、と。
弟たちをお世話するんじゃなくて、大好きな友達として。
いっぱいいっぱい遊んであげてくれないかな、と博は言った。
キョトン、と目を丸くする快彦。
「よっちゃんの友達とも遊べるように俺たち頑張るけどさ。毎日は無理だから、許して?
昌兄も俺も店で手一杯で、どうしようもないんだよね」
店を開いて2年になるけど、忙しさは増すばかりで。
それはそれで嬉しいのだけれど。
すまなそうに手を合わせて謝る博を見て。
快彦は下を向いてしまった。
「・・・・よっちゃん?」
「そ、だよな。博くんも昌行くんも、遊ぶ暇ないのに頑張ってるもん」
俺だけじゃないんだ。
みんな、自分の好きなことしないで頑張ってるんだ。
そう、よっちゃんは言うけど。
ちょっと違うかな。
頑張ってはいるけど、好きなことをしてないわけじゃないよ。
大好きな兄弟のために頑張る。
それが、俺にとっても昌兄にとっても誇らしいことなんだから。
俺もしっかりしなきゃ。
「お兄ちゃんだもんな、俺」
快彦はそう言って、にぃっと笑い。
あわせて博も微笑んだ。
「「ただいまー!!」」
玄関から、声。
それに快彦は目を輝かせ、走り出した。
すぐに遠くの方で快彦のおかえり剛ちゃん健ちゃん、という声が聞こえ。
うわやめろウザいだの、何か叩く音だのが続き。
そこにたどり着いた博が見たのは、満面の笑みを浮かべる双子と快彦の姿だった。
・・・さぁて。
俺は外で気まずそうに煙草吸ってる昌兄を慰めにでも行こうかな。
>親子喧嘩と飴と鞭。
よっちゃんが荒れてた時期の話で、まぁくん19歳、ひっくん18歳。
よっちゃん14歳、双子7歳、(いないけど)准ちゃん3歳の時です。
2006.8.26