14:「はい」は一回でいいの。





「昌兄ー」
ニコニコしながら博が昌行の元へ駆け寄る。
それを見た昌行は眉を顰めた。
博がこういう顔をして自分のところに来る時に言うことは決まっている。
「なんだよ」
「ココ、行こうよー!」
バッと目の前に広げられたグルメ雑誌に、昌行は深いため息をついた。
「またかよ」
「いいじゃん。ココの塩ラーメンが美味しいんだって」
「・・・またラーメンかよ」
昌行はげんなりとした。






ここ一週間おきに博と外で食べ歩きをしている。
店の休みである火曜日の昼食がターゲットであるのだが。
近くの店か自分の料理で簡単に済ませたい昌行に対して、自他共に認めるグルメの博はどこかに行きたがるのだ。
しかもよく食べる。
一軒で十分な量を食べているのに、二軒目に連れて行かれるのも常だ。
博は大のラーメン好きなので、行く店も大半はラーメン屋さんである。
昌行はよくもまぁ毎回違う店を見つけてくるもんだ、と呆れ半分に感心しているのだった。






「いいじゃーん!行こうよー!」
駄々をこねる様に強請る博を尻目に、昌行は傍にあった新聞を広げた。
どうやら話を聞く気はないらしい。
博は口を尖らせて昌行を睨みつけた。





「ちょっと、聞いてる?!」
「はいはい」
「はいは一回でいいの!!」
「あー、はい」
「来週の火曜日!約束だからね!!」
「はいはい・・・って、お前!!俺は行くとは言ってねぇだろ!!」
「今言ったもん」
「・・・・・・」
「昌兄、男に二言はないよね?」
にっこりと笑う博の笑顔が凄みを増していて、昌行は本能で感じ取った。
コイツをこれ以上怒らせてはいけない、と。
食べ物の恨みは恐ろしいのだ。
一度約束を破ったことがあるが、その報復は言葉に出来ないくらい恐ろしいものだった。
「・・・・・はぁ」
「ってことで、ヨロシク☆」
楽しそうにスキップをしている博の背中を見ながら。
自分のヘタレ加減を再実感する昌行であった。





>毎週火曜日は博のグルメツアーデイ。



2006.8.17