剛の目は真剣そのものだった。
じっと目の前にある丸い機械を睨み付け、一点集中。
取っ手に手を置き、ゆったりとそれを回す。
心配そうに隣でそれを見つめる健。









がらがらがら。
・・・ぽん。













飛び出したのは、黄金に光り輝く玉だった。





















































福引温泉家族旅行












































「「当たったーーーー!!!!!!!」」
双子の叫びに店内は一時騒然とする。
学校から帰ってきた剛と健は弾丸のように店の中を走り抜け、キッチンに向かった。
「オイ!営業中は静かにしとけっつっただろ!」
2つの鍋と1つのフライパンと格闘しながら眉を顰めて昌行が怒鳴る。





「ごめんよー」
「でも当たったんだよー昌行兄ちゃん」
「何が当たったんだ?」
「これ」
剛が高々と掲げた白い物体には、『家族で温泉旅行1泊2日の旅』という文字が書かれていた。
しかし昌行はよかったな、とだけ言って調理に集中してしまい。
どうやら真面目に見てくれていない様子に剛と健はぷぅっと両頬を膨らませた。





「なに、どうしたの二人とも」
ウエイターをしていた博が様子を見にキッチンにやってくる。
瞬間、双子は目を輝かせて博に当たった!と言ってそのブツを見せた。
「うわ、なにこれなにこれ!」
昌行と違い良いリアクションを見せる博に二人は満足そうに微笑む。
「商店街のガラガラで当てたんだよ!」
「俺!俺が当てたの!!」
剛が得意満面に言うと、博はにっこり笑って彼の頭を撫でた。
それを見て俺も俺も、と強請る健を見て、両手で二人の頭をわしゃわしゃとかき混ぜる。
くすぐったそうに笑う二人に、昌行は目を細めた。
すると、博が微笑む。





「・・・・なんだよ」
「悪いけどもう定員なんだよ昌兄」
「は?」
「だって、羨ましそうにこっち見るから。撫でて欲しいんでしょ?」
その言葉ににんまりと意地悪い笑みを浮かべる3人に、昌行はカッと赤くなって怒鳴った。
「んなわけないだろ!博、さっさと運べ!健と剛は部屋に行ってろ!」
短気な兄の反応に、兄弟たちはもう手馴れているものだから。
大して怯えるわけでもなく、剛と健は楽しそうに話しながら部屋に戻っていき。
博は出来上がった料理を手際よく運ぶことに専念した。



























「たっだいまー!」
「たっだいまー!」
夕方5時過ぎ。
快彦の元気な声に准一の声が続く。
最近、准一はよく快彦の真似をするのだ。
それがいい時もあれば悪い時もあり、この前は風呂上りに二人で全裸で鬼ごっこを繰り広げたため、昌行を困らせている。
当の本人たちが楽しそうだからいいと言えばいいのだが。
快彦は疲れたー今日も頑張った俺!と言いながら准一の様子を見ていた。
准一は座り込んで一生懸命靴を脱いでいる。
すぽっと両足が靴から抜けた瞬間、快彦は准一を抱き上げた。
そしてそのまま部屋へダッシュする。
すると、居間に家族が集合しているのに気づいた。





「ありゃ。どうしたの?皆揃って・・・家族会議?」
「あ、お帰りよっちゃん、准一」
「ただいまー!」
「あっ、わかった!剛ちゃんまた悪戯したんでしょ〜?」
にんまりと笑いながら快彦は剛を肘で突いた。
「違ぇよっ!そういうこと言うなら快兄は混ぜてやんねーからなっ」
「えぇ〜っ、そんなこと言わないでよ〜!なになに?何か楽しい事?」
わくわくしながら周りに尋ねる快彦の様子に、別に何もなくても楽しそうだなコイツは、と昌行含め家族全員がそう思ったのだった。








「温泉!」
剛と健の話を聞いていた快彦は物凄く嬉しそうな声を上げた。
なにしろ家族の中で一番イベントごとが大好きなのは何を隠そう、彼である。
そんな彼が温泉旅行と聞いて嬉しくないはずがない。
「よしくん、オンセンってなに?」
嬉しそうな快彦を見上げ、准一が尋ねた。
その問いに自信満々に答える快彦。
「お前、温泉っつったらでっけー風呂だよ!」
あまり答えになっていない気もするが、頭のいい准一は理解したらしい。
「うちのおふろよりもでっかいん?」
「おう!ウチの風呂の100倍くらいでっかいぞー!俺お前に泳ぎ教えてやるよ」
「こらこらこらこら」
「あだっ」
博に後頭部をばっこーんと叩かれて快彦は床に沈んだ。
「なんだよぉひっくんっ」
「温泉は泳ぐ場所じゃないでしょ?」
「え?違うの?!」
「・・・・・・・」
本気でびっくりしている快彦に、昌行と博は酷く落胆する。
こいつ、今年何歳だっけ?とお互いアイコンタクトで確認を取ってしまうほどだった。
剛と健は馬鹿じゃないの、と言いつつも楽しそうに笑っている。





「これ、いつ?」
「えーと、今度の日曜日、かな」
「みんな行けんの?」
「行くに決まってるでしょ。家族旅行なんて久しぶりだしvそれにここ、料理が美味しいらしくてさー」
食事の話になると途端に嬉しそうに話す博。
旅行先の食事の選択権は彼が絶対的権力で握っている。
彼が選ぶところに外れはないので、誰も文句は言わないようだが。
たまにマニアックなこだわりを見せるので、ついていけないこともしばしばあったりする。





「よし。そしたら今度の日曜日は温泉で決定だな」
話がいい感じに膨らんできたところで昌行がまとめにかかった。
彼がまとめないと話が進まないのがこの家族の特徴である。





「うわーい!俺わくわくして寝れないかもっ!」
准一を抱きしめてまるで小学生のような反応を見せる快彦に。
「まだ3日後だぜ快兄」
「そうだよ。3日も寝れなかったら当日寝坊しちゃうよ」
と、現役小学生の双子は冷静に突っ込みを入れた。
































そして当日。
博の事前リサーチの甲斐あって、迷わずに到着した。
部屋に入るなり、兄弟は色めきたった。
「うっわー!すっげぇ広いー!」
「ホントだー!」
言うなりどたどたと部屋の中を走り出す剛と健。
「おっ!めちゃめちゃ景色いいじゃーん!」
「商店街の景品にしてはいいところだな」
窓から景色を見て喜ぶ博のとなりで、昌行が嬉しそうに目を細める。
「准ちゃん!こっち来てみ!海見えるぞー!」
快彦にこいこい、と手招きされて、准一は彼の元に走った。
たどり着くなりひょいっと抱き上げられる。
目の前に広がる青に、ぶわっと准一の顔が綻んだ。
「うみー!よしくんうみー!」
「海だなー!」
楽しそうに言葉を交わす二人。
その近くを猛スピードでダッシュしている双子。







ぱんぱん、と博の手を鳴らす音が響いて、部屋の騒音はぴたり、と止んだ。
「はいはい、騒がないの。ご飯まで時間あるから温泉行くよー」
「はーい!」
元気よく返事をする4人に、博は満足そうな笑みを浮かべる。
それをとなりで見ていた昌行はまるで保育園の先生のようだなぁ、と思い笑う。
タオルだの浴衣だのを持ってわいわいと部屋を出て行く4人を見送り。
少し遅れて博と昌行も後を追う。





「あいつら元気だなぁ」
「嬉しいんじゃない?家族ででかけるのってそうそうないし」
「そうだな」
確かに店が忙しくてどこかに出かけるということが簡単に出来ずにいた。
しかし、あれほど嬉しそうな兄弟を見ていると、今度からはちょくちょくどこかにでかけるようにしようか、という気になる。
どこかに泊まりに行くのではなく、ただ出かけるだけでも楽しいものだから。





「あー、温泉にゆったりつかれんの幸せだなぁ」
「・・・昌兄、それオッサン発言v」
4人に向けたのと同じ笑顔で。
博は昌行にずばりとそう言ってのけた。























昌行は浴場に足を踏み入れた時、軽く眩暈を起こした。
目の前の状況があまりにも予想通りで、温泉にゆったりつかれる状況ではなかったからである。
一言で言うと、五月蝿い。
騒ぐ兄弟の声がお風呂場に反響していて、耳を塞いでも聞こえてくる。
「お前ら!ちゃんと静かに入れないのか!」
昌行の怒鳴る声も彼らの騒ぐ声にかき消された。
となりにいた博はぽん、と彼の肩に手を置く。
「昌兄、諦めよう」
「くそ・・・俺はゆっくりしたいのに・・・」
「ま、あいつらが飽きて出て行くのを待つしかないよね」
冷静な博の発言に、昌行はしぶしぶながらに頷いた。





がっくりと肩を落とした兄二人を認め、兄弟たちは彼らの心情も知らずにぶんぶんと手を振る。
「あ、昌兄と博兄、やっと来た〜!」
「おっそいぜー二人とも」
「そうだよー!温泉気持ちいいよー!うわっちょっと快兄!水かけないでよ!」
「残念でしたー!水じゃなくておっゆでーすv」
「腹立つっ!このやろっ!!!」
「がぼっ」
「健!俺まで巻き込むんじゃねぇよー!!」
「快兄に言ってよー」
「言えって言っても、快兄沈んでんじゃん」
「・・・・・・・・・・・・・ぶはっ!このやろ!殺す気か!!」
「あたっ!」





・・・とまぁ、この調子である。
博は苦笑しながら離れたところにある温泉につかった。
昌行も後に続こうとして、腰に巻いたタオルをくいっと引っ張られる。
目をやると、そこには准一が立っていた。
「ん?どうした、准一」
「あのな、あのな、おれ、まぁくんのせなかあらったげる!」
ダメ?と首を傾げる准一に、昌行はじわりと涙腺を緩ませた。
「お前はほんっとにいい子だなぁ!」
「えへへ」
「准一、俺はー?」
「ひっくんのもあらったげる!」
一生懸命な准一の様子と感動して泣きそうな昌行を見て、博は大いに笑った。








「まぁくん、きもちいーい?」
「おー。准一上手いなぁ」
わっしゃわっしゃと昌行の大きな背中を、体全部を使って准一がスポンジで擦る。
「あのな、ヒガシせんせいがな、おとうさんのせなかあらってあげるとよろこぶっていったんや」
「おと・・・」
准一の言葉に、昌行はぴしっと固まる。
「まぁくんはおれのおとうさんやから、あらったげるん!」
「あー・・・・・ありがと、な」
はっきりとお父さん発言をされた昌行はがっくりと項垂れつつ、とりあえず准一にお礼を言った。
「・・・なぁ、俺がお父さんなら博はなんなんだ?」
「ひっくんはおかあさんやねん!」
「・・・・・・・」
自信満々に言う准一に、昌行は目を白黒させた。
な、何かが間違ってる・・・!
確かに准一は親を知らないままで育ったけれど。
言うに事欠いて俺が父親で博が母親だと!?
「「気持ち悪い!!」」
二人の声がハモって浴場内に響き。
昌行と博が顔を見合わせてアイコンタクトを取っている図を見て。
「やっぱり、そうや」
と、准一が満足気に笑ってそう言った。
























10分後。
騒がしくしていた4人は温泉に飽きてしまい、浴場を出て行った。
残ったのは昌行と博だけ。





「あーーー・・・・やっと静かになったなぁ」
「そうだね」
頭に手ぬぐいを乗せ、温泉に沈む昌行の言葉に博が同意する。






「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ふー」
「・・・昌兄、今同じこと考えてた俺」
「なにが」
「あれだけ騒がしいといなくなったら寂しく感じるよね」
「・・・・・・まぁな」
遠い目をして昌行は頷いた。
それは朝、家を出て行く時の瞬間と似ていて。
別に離れ離れになるわけでもないのに、胸が寂しさで痛む。






「大人、なのにな」
寂しいなんて子供が言うことだ、と昌行は呟いた。
博はその言葉にふるふる、と首を横に振ってみせる。
「関係ないよ、そんなの。大人だって寂しい時は寂しいんだから」
寂しい時は寂しいって言っていいんだよ、と。
言って、昌行の頭を手ぬぐいの上からぽすぽすと叩く。





「・・・・お前さ」
「何?」
「最近、母さんに似てきたな」
「そう?昌兄だって父さんそっくりだよ」
お互いに言い合って、その滑稽さに笑みが浮かぶ。
そして、さっき准一が言ってたことも強ち間違いじゃないのかもな、と二人は顔を見合わせて笑った。
























二人が戻ってくると。
騒がしいかと思っていた部屋がやけに静かで。
そっと博が中を覗きこんで、くすっと小さく笑い声を漏らした。
「どうし・・・」
「しっ。皆寝てるみたい」
人差し指を口の前に当て、昌行を制す。
昌行もどれどれ、と部屋の中を覗いて、ふっと笑った。





温泉に行っている間、ひいてくれたのだろう布団の上で。
4人は仲良く眠りに落ちていた。
大の字になり口を開けて眠る快彦。
快彦の右腕に頭を乗せるようにして眠る准一。
その二人に寄り添うようにしてくぅくぅ寝息を立てる双子。
それぞれの姿が微笑ましい。





「あーあ。よっちゃんおヘソ出しちゃって・・・風邪引いちゃうよ」
博は小さくそう呟くとそっと快彦たちに布団をかけた。
「どうするんだよ。メシまだ食ってないのに・・・」
「俺たちだけでいただいちゃおうかv」
「は?何人分あると思って・・・」
「食うよ、俺」
探究心で食べるものは全部別腹、と。
いつかどこかで聞いたような台詞を博は言い。
起こすのが忍びないと思っていた昌行は、部屋に料理を持ち帰らせてもらおう、とこっそりそう思ったのだった。













END

尻切れですが、ただ仲良しな親子旅行を書きたかっただけという(笑)
だから意味もへったくれもなくなっちゃいました。
はしゃぎ過ぎて寝ちゃう兄弟がいいです。
そんな彼らを見てくれれば嬉しいなと思います。
2006.7.30