坂本家の朝は慌ただしく始まる。
















Daddy, Brother, Lover, and Little Boy
















「剛っ!健っ!准一っ!おっきろー!!」
快彦は手をメガホンのように口の側に添え、眠っている兄弟達に向けて声を張り上げた。
かなりのハイテンションで顔を物凄く綻ばせているところを見ると、この役割が楽しくて仕方ないらしいことがわかる。




そして声をかけられた3人はというと。

剛はうるっせぇなぁ、とぶつぶつ呟きつつ二度寝に突入。

健は驚いた様にがばっと飛び起き、辺りをキョロキョロ見回す。

准一は自ら起き出したかのように自然に体を起こし、目を擦りながらベッドを降りる。



・・・三者三様とはまさにこのことを言うのだろう。




彼らに声をかけた主はその様子を見てニンマリと口の端を持ち上げ、ベッドで丸まっている剛の上に勢いよく乗っかった。





「うげっ」
「剛く〜んっホラッ早く起・き・て〜vv」
「重っ!てかキモいから止めろよぉ」
「起きるなら止めるよーんっ☆」
子供のようにはしゃいだ口調で快彦は剛を揺らす。
わかったから止めろよーと剛は起き上がり、自分の上に乗っている快彦を床に落とした。
いくら運動神経がよくてもベッドと床の距離が短いと反応出来ないらしい。
快彦は床に落っこち、ゴンと小気味良い音を立てて頭を強打した。
「いってぇー」
「あっ・・・・っばっかじゃねぇの!乗ったりするからバチが当たったんだよっ」
一瞬躊躇いつつも、剛はそれを隠して悪態をついた。
「・・・・・うー」
快彦は言い返そうと口を開くが、剛の言い分が正しいのでふてくされた様に口をつぐむ。
そんな快彦を置き去りにして、剛はまだキョロキョロしている健の手を取り部屋を出ていった。
「うわっお前らつめてーなー!」
打った頭を摩りながら、しょぼくれた様に呟く快彦。
今年高校2年生になったとは思えない言動と行動に、上の二人が少々頭を悩ませていることを本人は知るよしもないのだった。






「お前ら、早く顔洗ってこいよ!」
キッチンでフライパンを振りながら昌行が叫ぶ。
テーブルには湯気の立っている朝ごはんが並んでいて。
席には既に博が座っていて、准一をだっこしてニコニコしながら下の兄弟達を見ている。
はたからみれば微笑ましい図ではあるのだが。
剛達には彼の心の中がありありと見えていたので。
素早く隣にいる健とアイコンタクトをとる。
さすが、双子。




―――――――博兄ちゃんは早く食べたくて仕方ないんだ。
―――――――マズイぞー早く用意しないと機嫌悪くなるじゃん!
―――――――うん、早く顔洗ってこよう。




目配せをし、慌てて洗面所に駆け込む剛と健。
その様子を変わらぬ笑顔で見ている博を、准一は不思議そうに下から覗きこんでいた。







「腹減ったー」
目覚ましの役目が終わった快彦がひょこひょこやってきて、博の横に腰を降ろす。
テーブルの上の料理を見るなり、とびきりのスマイルを顔に浮かべた。
普通にしていても細い瞳が、線のようになる。
「わー美味そーvv」
「毎朝よくもまぁそんな幸せそうにしてられるねぇ」
呆れたように博が言うが、言葉とは真逆にその口は優しく笑っている。
「だって昌行くんのご飯美味しいんだもん!」
いっただきまぁす、とフライングスタートを決めようとした快彦の手を、キッチンから料理を運んできた昌行がばしりと叩いた。
「いって」
「快彦」
明らかに抗議の目。
それを見て、快彦は大げさなほどにため息をついて見せた。
「わぁかってるよ。メシは皆が揃ってから、だろ?」
「知ってるならやるなよ」
ペシリと快彦の頭を叩くと、昌行はキッチンに戻っていった。
その後ろ姿を半分恨めしそうに、半分悲しそうに見つめている快彦を見て、博がふわりと笑う。
「・・・・なに、博くん」
「んーん。何でもない」
「・・・・・・」
快彦は博に詰め寄ろうとしたが、後のことを考えると何も言えなくなった。
それに、博には自分の気持ちが見透かされている気がしていたから。
ボケツを掘るより黙っていた方が懸命だろう、と判断した快彦であった。
「ちょっ、博手伝え!」
キッチンから昌行の焦った声色が聞こえ、博はため息混じりの息を吐いて席を立つ。
「はいはい。今行きますよー」
「頼むー」
立ち上がった博は快彦の膝の上に准一を置いた。
「え?」
「つまみ食い防止☆」
にこやかな博の言葉に快彦と准一は同時に目を見合わせる。
「はい、予行練習。快彦、つまみ食いしてみて」
言われて、いいのかなーと思いながらも快彦はチーズトーストに手を伸ばした。
「はいっここで准一注意するっ!」
びしりっと指差された准一は一瞬きょとんとした後、真剣な瞳になり。
「よしくんあかんっ!」
ぺちり。
そう言って小さな手が快彦の大きな手を叩いた。
小さい子供が叩くのだから大した力はない。
しかし、快彦は准一から注意されたことに驚きを隠せないようで。
それを見て博は満足そうに微笑む。
「よし。じゃあ行ってくるねー」





博が去った後。
快彦は准一を見た。
准一の目線は快彦の両手にしっかりと注がれている。
瞬きを忘れたような准一の表情に、つまみ食いなんてしないから、なんていう大人な発言をする快彦ではない。
最高のイタズラを見つけた喜びに顔をニンマリと歪ませ。
再びチーズトーストに手を伸ばした。




「よしくんあかんっ」
ぺし。



負けじと快彦はまた手を伸ばす。




「あかんっ!」
ぺち。





誠実に任務を遂行する准一が面白くて仕方ないらしい。
快彦は笑いを堪えながらまたも料理に手を伸ばした。




「よしくんっ」
ばっちーんっ!!!!
「あでっ」





快彦はあまりの痛さに手を引っ込めた。
声は確かに准一だったが、叩いたのは違う人だ。
恐る恐る上に目をやると。
そこには手に皿を持ちながらこわばった笑顔を浮かべて立っている博がいた。
ぞわぁっと快彦の背中に何か冷たいものが走る。




「よっちゃん、今何かしてた気がするんだけどぉ〜俺の気のせいかなぁ〜?」
「・・・・・・」
「よっちゃん?」
口調は優しい。
優しいが、怒りの含んだ声に。
「・・・・っごめんなさい・・・」
快彦は早々と降参した。



顔を洗った剛と健が席につき。
昌行がエプロンを外して椅子に腰を降ろす。
ぱちん、と手を合わせて准一がいただきます!と元気よく言った(これは幼稚園の教えである)のを合図に、箸が一斉に目的のものへと伸ばされた。
食べ盛りの子供たちばかりなので、油断しているとあっという間にものがなくなっていく。
特に、快彦と剛と健の間では常に食べ物の強奪が起きる。
健の皿からウインナーを取った剛が快彦にフライドポテトを取られる、といった具合だ。
のんびりと自分のペースで食べる准一の分は、博がきちんと確保していて。
昌行は兄弟たちが夢中で食べている様子を見て、嬉しそうにしている。









10分ほど時間が過ぎた頃。
「快彦、時間大丈夫?」
「んぁえっ」
チーズトーストにハムエッグを乗せて頬張っていた快彦は、博の言葉に時計を見て目を見開いた。
8時4分。
家を出る時間まであと6分しかない。
「やっべ!剛、健、准一、早く食べろ!」
「んむっ」
「もごもご」
手に持っていたものを無理矢理口の中に押し込むと、快彦はバタバタと部屋に戻り、自分のと准一の鞄を持ってきた。
博は剛と健のランドセルと黄色い帽子を用意する。
小学校はここから近いのだが、車通りが激しいので途中まで誰かがついていかなければならない。
昌行と博はお店を開けなければならないため。朝の送り出しは自然と快彦の役目になっていた。
3人は快彦と同じように食べ物を口に押し込み、それぞれに用意された自分の持ち物を装着する。
快彦は自分の鞄を腋の下に挟み、身支度の整った准一を右手で持ち上げて抱き、左手で剛の手をぎゅっと握って引っ張った。
剛の手にはしっかりと健の手が握られている。
「いってきまっす!」
兄弟は揃って声を上げ、剛と健は半分宙に浮いたような感じであっという間に外に飛び出していった。








「・・・・行ったね」
「ああ」
返事をすると昌行はどすん、と椅子に腰を下ろし、食事の続きを始めた。
騒々しい兄弟が外に出て行った反動は大きい。
必要以上に部屋が静かに感じるから。
「この瞬間が寂しかったりするんでしょ?」
「・・・・お前だってそうだろ」
「うん」
素直に頷く博に昌行は苦笑いを返した。
「さ、俺たちも準備しないとな」
「そうだね。今日の日替わりランチは何?」
昌行はうーん、と大きく伸びをして軽く首を捻る。、
「うーん・・・エビのイタリアンパスタ」
「いいね。もちろん、俺の分は残しておいてくれるんでしょ?」
当然のように言う博は、この家の誰よりも食べ物に目がない。
しかも、美味しいか不味いかの判定もシビアである。
そんな博でも、昌行の料理はどれも美味しいらしく毎回楽しみにしているようだ。
「仕方ねぇなぁ。休憩時間にでも作ってやるか」
「よろしく♪」
にっこりと満面の笑みを浮かべ、博は立ち上がって窓の外を見た。




「今日もいい天気だね」
「ああ。絶好の料理日和だな」





楽しそうな口調の博に、昌行は似たような口ぶりで機嫌よく言葉を返した。







END


とうとう書いてしまったブイロク家族ものです。
何か色々考えているうちにずるずる続いてしまいそうな感じ。
准一くんの幼稚園の方針とか、快彦くんの家族の呼び方を見てくだされば色々わかるかと。
でも、しっかしあれだ。
どう考えても快彦くん贔屓な感じですね(笑)
2006.7.8