風邪を引いた日には










坂本快彦、現在高校二年生。
突然ですが今回、馬鹿は風邪引かない説を撤回したいと思います。
っていうか、実は俺馬鹿じゃなかった?なーんて思ったりもしたんだけど。
倒れる寸前に悪友にイヤそれは有り得ないから、と真顔で冷静に思いっきり否定された。
アイツ酷くない?俺、仮にも病人なんだけど。
とりあえず、昼ご飯のパンを買って来て自分の席に座ろうとしたところで俺は倒れた。
教室の机を何個かひっくり返すというはた迷惑な行動付きで。
意識はぼんやりあるんだけど、どうも頭が熱ぼったくてぐらんぐらんする。
仰向けになったままでいたらひょこっと見えた昌宏の顔。








ぺちぺちぺち









オイ、ほっぺた叩くな。
ヤツの手を払う行為ですら億劫。









べしべしべし










痛い痛い痛い痛い。
なにすんの。
なにしてんのコイツ。
嫌そうに顔を顰めてみれば、眉をぴくりと動かして。
耳元で保健室行くぞーと怒鳴られた。
五月蝿ぇー。
お前の声、元々高くてでけぇから頭に響くんだよこのアヒル野郎が。
文句の一つでも、と思ったのとほぼ同時に、俺の身体がふわりと浮く。
どっこいせ、とおっさんのような掛け声と共に、昌宏の腰辺りが逆さまに俺の目の前に飛び込んできた。
否、正確にはぶち当たってきたと言うべきか。
お米よろしく担がれた俺はそのまま教室を出て、保健室へまっしぐら。





あの、一つごめん。
運んでくれてるとこ本当に申し訳ないんだけども。
この体勢、結構苦しい。
























































































保健室が遠くなかったのが幸いだった。
ノックをしてみるも、先生は不在だったらしい。
勝手に入って休んでちゃ駄目なんて決まりもねぇだろう、と昌宏はずかずかと中に押し入り。
ふかふかのベッドにもののように放り投げられ、悶絶していると体温計を無理矢理口に入れられた。
え、普通腋だって腋。
抗議の目線を送ればべしり、と叩かれる。






・・・もう一度確認したい。
俺病人、なんですよね?
どれだけ愛がないんだよウチの悪友は。







































































































































「・・・・・・馬鹿野郎。熱っぽいなら言えよ」






そしたら俺お前に無理なんかさせなかったのによ、と。
不意に、ベッドサイドに座ったアヒルがぐわぐわと口を尖らせて言った。
ああ、確かに。
お前の使いっ走りが悪化の原因かもなぁ。
まぁでも。
ジャンケンに負けた俺に運がなかっただけだし。
お前、知らなかったし。
「・・・・・・気に、すんなよ」
搾り出すようにそう言えば、気にしてねぇよ、と可愛くないお返事。
ま、いいけどね。
そこがコイツらしーし。






っていうか、まずい。
頭ぐらんぐらんしてきた。
ぎゅうっと目を瞑れば、誰か呼ぶか?と昌宏が尋ねてくる。








誰か、って。
今、お昼時じゃん?
ウチの喫茶店ってすっげぇ人気あんのよ。
お昼はランチタイムでオフィスレディたちが溢れるし。
昌行くんの料理と上二人のビジュアルがあってこそだと思うんだけど。
だから、軽々しく呼べないわけ。
下の子たちはみんな学校でちゃんと偉い子にしてるわけだし。
あ、准ちゃんは幼稚園だけど。
それぞれ忙しくて、時間割けないんだよ。





ふるふると首を横に振れば、困ったような顔。
なんだよ。
お前がんな顔しなくたっていいだろうがよ。





「・・・寝てちったぁ汗かけば少しはよくなるだろうし、ここにいる」
運んでくれてさんきゅーな、と言うと、ヤツは微かに照れたように笑った後。
「この後の授業、聞いたってわかんねぇから俺もヨシと一緒にフケるわ」
ラッキー、なんつって、座ったまま長い手足を伸ばした。





前言撤回。
やっぱり、俺の悪友はいいやつだ。





























































































































































熱に浮かされてウトウト、浮上したり沈んだりしていた俺の耳に、声。
聞き覚えのある優しい声が、しきりにお礼を言ってる。
誰かが出て行った音の後を追うようにして、よっちゃん大丈夫?と。
その言葉で誰だかわかった俺はぱちり、と目を開けた。





「・・・博くん・・・?」





出した声は予想以上に掠れていて。
うん、と頷いた博くんは俺の額に手を当て、渋い表情になった。
そんなに酷いのかな、俺。
博くんの手が、ひんやり冷たくて気持ちいい。
「・・・・・・気づかないでごめんね、よっちゃん」
急にこんなに熱出るわけないもんな、と。
本当に悲しそうに言うもんだから、こっちまで悲しくなってくる。
別に博くんの所為じゃないよ。
俺、言わなかったし。
言葉にするのがきつくて、にひ、と笑って見せたら、博くんはホッとしたような笑みを浮かべた。
「外に昌兄待ってるから」
「え・・・店、は?」
「今日は2時で閉店。学校から連絡受けてから昌兄が早く迎えに行ってやりたいって言って、勝手にね」
CLOSEの看板かけて、来てくれたお客さんに事情を説明して。
最後のお客さんを見送った後、車を飛ばしてきてくれたらしい。
・・・俺ただの風邪だよ、昌行くん。
まるで重病人のような扱いに呆れた顔をして見せれば同感だ、と言わんばかりに博くんもため息をついて苦笑いした。







あれ、そういえば。
図体のでかいアイツの姿がどこにもない。
「博くん、昌宏は?」
「マサヒロ?・・・あぁ、あの子か」
合点がいったようで、ふわりと微笑む。
どうやら、博くんが来た時点で保健室を出て行ったらしい。
あの音はヤツの出て行く音だったのか。
「ヨシは寂しがりだからもっと気にかけてやってください、って言われたよ」
「・・・・・・ぁんの馬鹿」
そんなこと言ったのかよ。
ウチの事情何にも知らねぇから、アイツ。
兄弟を養う為に二人とも忙しいんだから仕方ないのに。
でも、博くんはさして気にした風ではなく、ただ笑って。
「いい友達だね」
と、言いながら俺の髪の毛を優しく撫でてくれた。
うん、いいヤツだよ。







「さ、そろそろ行こっか」
立てる?と言われて試しにベッドから降り立てば、ふわりと浮いたような感覚に苛まれた。
肩借りれば何とか・・・と思ってたら、博くんが俺の前でしゃがむ。
「・・・・・・?」
「こっちの方が早いから」
おんぶの体勢で待っている博くんにビックリする。
え、おんぶって。
俺高校二年生だよ?!
「ひ、博くん潰れちゃうよ?!」
「よっちゃん一人背負えなくてどうするの。ほら、早く」
昌兄イライラして待ってるから、と言われて。
ちょっと迷ったんだけど、お言葉に甘えて背負ってもらうことにした。
風邪引いてると甘えたくなるのかな。
普段なら絶対要らないっつって断るのに。
ぐん、と目の前の景色が下がって、目線が高くなった。
頬が博くんの背中に当たる。
あったかくて、優しくて、そんでもっていい匂いがした。
博くんの場合は香水とかじゃなくて専ら食べ物の匂いなんだけど。
バターみたいな、パンみたいな、そんな香り。
そういやランチメニューに自家製パン入れるっつってたっけ。
美味そう。
昼ご飯を食べてなかった俺の腹がぐぅ、と小さく音を立てて鳴る。
それを博くんが聞き逃すはずもなく。
帰ったら昌兄にお粥かうどん作ってもらおうね、って。
本当に小さな子どもに言うように、優しく言ってくれたから。
こくんと素直に頷けば、小さく笑われた。
















































































駐車場に辿り着くと、車の外に出てタバコを吸っている昌行くんが見えた。
足元にはたくさんの吸殻。
かなりイライラしながら待ってたらしい。
俺たちの姿を見つけると、さっきの博くん同様ホッとしたような顔になる。
「大丈夫か?」
心配そうに覗き込まれ、言葉に頷けばそうか、と淡白な返事。
博くんの背中から降りて、肩を借りつつ車に乗り込む。
座席には買い物袋が置いてあって、中身を覗けばポカリに、桃缶に、うどんの材料。
全部俺のために買ってきてくれたんだな、って思って。
それだけで嬉しくなる現金な俺。
これかけとけ、と手渡された毛布を肩まで羽織り、小さく丸くなる。
隣には博くんがいたから、凭れかかれば。
運転席の昌行くんの視線がバックミラー越しに見えた。
ちょっと、怒ってる?
「昌兄。よっちゃん困ってるって」
「五月蝿ぇ。なんでお前ばっかり快彦甘えさせてんだよ」
「仕方ないでしょ。車運転出来るの昌兄しかいないんだから」
昌兄の分まで甘えてもらうから心配しないで、と。
博くんの言葉に昌行くんはいじけてしまったらしく、もうこっちに視線を向けてはこなかった。
・・・何の喧嘩だよ。
二人とも子どもだなぁと思いながら、襲ってくる睡魔に目を蕩けさせていれば。
寝ていいよよっちゃん、と頭を優しく撫でられた。
うん、そうする。
ちょっと、寝るね。
そんでもって、帰ったら今度は昌行くんに甘えてあげるからね。
途切れ途切れに、夢見心地にそう言えば。
運転席の昌行くんが苦笑気味に俺を見つめていた。
車が動く揺れに身を任せ。
俺の意識はだんだんと遠くなっていった。

















































































































































だが、しかし。
帰ってからはもっと大変だった。
剛と健が帰ってきて、寝ている俺を気遣ってくれたのか最初は静かだったんだけど。
あまりにも俺が静かだったのが珍しかったのか、二人揃って覗きに来た。
まん丸な目が、四つ。
おいコラ、風邪うつるぞ。
「快兄、だいじょぶかー?馬鹿なのに風邪引くんじゃねーよー」
「早く元気になれよなーつまんねーじゃんっ!」
心配されてんだかどうだかイマイチよく掴めないんだけど。
そう言って、二人はどこかに走っていってしまった。
何だよー来たんならもっと傍にいてくれよー。
お兄ちゃん、寂しいだろ。
まぁ、ウチの可愛い弟に風邪がうつっちゃったりしたら困るからいいんだけどね。









もそもそ









ん?
何だか布団の中に俺以外の生き物が入り込んでるんですけど。
犬?猫?
「ぷわぁっ!」
「じゅ、准ちゃーんっ?!」
ぴょこんと布団から顔を出してきたのは犬でも猫でもなく、末の准一で。
どうやら俺の足元から潜ってここまで這ってきたらしい。
「足、臭くなかった?」
「ぉん!じゅん、はなつまんできたからだいじょーぶ!!」
論点のずれた俺の言葉に対して意外と辛辣な言葉で返してくる。
鼻、抓んできちゃったのねー。
准一はもそもそと俺と同じ目線になるまで這ってきて、小さい腕を広げぎゅうっと抱きついてきた。






なになに。
何がしたいのこの子。







「じゅんね、よしくんとおるよ」
「うん?・・・って駄目だよ。風邪うつるもん」
「ええの。だって、よしくんもずっとじゅんとおってくれとったもん」
ぎゅー、と口で効果音をつけながら、俺にくっついて離れない。
嬉しいけど、困った。
俺が風邪引いた准一と一緒に居たのは、馬鹿は風邪引かない説を信用していたからであって。
否定した現在、一緒に居ることは余り得策ではないと思うのね。
それより何より、ウチの准ちゃんは兄弟一頭のいい子なんだから、そんな説自体使えないわけで。
「准、いい子だからひっくんとこ行ってな」
「いややーじゅん、よしくんとこおるー」
「もし准が俺の所為で風邪引いたら困るよ?」
「・・・・・・うー」
「一人で大丈夫だから、今日はひっくんとこ行ってろ。な?」
「・・・・・・ぉん・・・」
しょぼん、と小さくなって。
悲しそうにするから、頭をがしがし撫でてやる。
「来てくれてありがと、准」
言えば、ぷわっと顔に笑みが戻って。
「じゅん、ひっくんのとこいってくるー!」
と、元気よく俺の布団を飛び出していった。
素直な准ちゃん。
・・・・・・いつか剛や健みたいに俺のこと嫌がる日が来るんだろうか。
抱きついた時「いややよしくん触らないで」なんて言われたら、俺立ち直れないぜ多分。
って、最近思考が昌行くん寄りになってる。
高校二年生にして、老けたか?










「快彦」










やんわりとした口調で低い声が響く。
目をやれば昌行くんが立っていて、手には土鍋の乗ったお盆を持っていた。
ぱかりと開ければ、ふわっと蒸気が立って、同時にいい匂いが部屋中に広がる。
あ、うどん。
昼から何にも食べてなかったもんだから、匂いに釣られてお腹が鳴った。
食欲はあんまり無いけど、昌行くんのご飯なら食べたいなぁ、なんて。
そんなことを思えるくらい、昌行くんのご飯は美味しい。
もそり、と身を起こせばうどんを盛った小さなお椀と箸を差し出され、受け取って中身を口に運ぶ。
薄めの出汁が軟らかめに煮たうどんに絡む。
ちゅる、と啜ってもぐもぐと頬張れば、口の中でうどんが溶けていった。
風邪引いた時は決まって食欲の落ちる俺のことをしっかり考えて作ってくれたのがよくわかる、優しい味。
「・・・美味いか?」
「うん、美味い」
笑って問いに答えれば、照れ混じりの自信に溢れる表情が返ってきた。
一杯分をお腹に入れ、満足していれば。
昌行くんがまた別のお皿を差し出してきた。
乗っているのは、桃。
あ、そういえば桃缶、買ってくれてたっけ。
受け取ろうとして、はたと。
思いついたことがあって、差し出した手を引っ込めた。






「食えないか?」
「ううん、食べたいんだけど、さ」
言って、口を開けてみせる。
「・・・・・・?」
不思議そうな昌行くんの顔。
それに向かって、にひっと笑ってやる。
「さっき甘えてあげるって、言ったじゃん」
そう、言えば。
ああと合点のいった表情になって。
さも当たり前だといわんばかりに食べやすい大きさに桃を切って。
フォークに刺して、それを差し出した。
「ほら」
「いえーいv」
はむっと齧りつくと、甘い香りが口の中に広がる。
なかなか桃缶なんて食べれないから、幸せ。








もう一口貰おうと口を開けた瞬間。
どたどたと足音が聞こえて。
あっという間に俺の寝ていた部屋の人口密度は上昇した。








「はい昌兄。よっちゃん独り占めタイム終ー了ー!」
博くんに桃の乗った皿を取られ、呆然とする昌行くん。
あは、滑稽。
「快兄、俺の作ったすりりんごも食べてー!」
「おい健っ!俺も作ったんだからな!」
「じゅん、やっぱりよしくんとねるー!」
ぎゅむと准に抱きつかれ。
健から差し出されたすりりんごはちょっと茶色くなってて。
お皿を持ってる双子ちゃんの指はところどころ絆創膏が貼ってあって。
俺のお兄ちゃんなハートがきゅーんとする。
「よっちゃーん、顔溶けてる溶けてる」
「えへへへ。だって、すっげぇ嬉しいんだもーん」











弟たちがこんなに心配してくれて。
昌行くんも博くんも優しくて。
俺ってホント愛されちゃってるのね、って再認識。
皆が居なくなったあと、大人しくベッドに横たわり、いつもよりも早い時間に目を閉じた。
風邪を引くのも悪くないなぁ、と、かなり不謹慎なことを考えながら。








END
みきまるさまリクエストで『家族ものか現実設定で風邪or病気もの』でしたー!
悪友をチェックされていたので現実設定より家族ものかなぁなんて勝手に考えてこうなりました。
ちなみにマボやんは城島昌宏です(聞いてない)
萌えを詰め込みすぎて不安ですが、楽しんでいただけると幸いです。
みきまるさま、アンケートリクエストありがとうございましたー!
2007.5.6