捨て子だった俺と松岡。
同時期に施設に入った俺たちは、自然と仲良くなり。
兄が欲しかった松岡と、弟が欲しかった俺。
自分たちの関係を家族に変えようとアイツが勝手に言い出して。
最初は俺はお前の兄貴じゃねぇよ、と突っぱねていたけれど。
両親が誰だか分からなかったし。
寂しがり屋で、なのに孤高を選ぼうとする捻くれものの松岡を見てるうちに。
否定するのも面倒くさくなってきて呼び名を受け入れた。
俺が15歳の頃に住んでいた施設が潰れて。
新しい施設を探し出せないまま途方に暮れていた俺たちは、坂本の家にお世話になった。
アイツとの出会いは幼稚園。
入園するために井ノ原を連れた坂本と、退園するために松岡を連れた俺。
施設から出てたお金がなくなって通わすことが出来なくなっちゃったから断りに行った。
その手続きを待っている時に隣同士に座って。
無言の気まずさに口を開けば案外いい奴で。
住む場所がなくてとりあえず公園の土管の中でどうにか過ごしていた俺たちの話を聞いて目をひん剥いた坂本の顔は今でも覚えている。
あれは傑作だった。
坂本の家は金持ちで、ついでに両親は放任主義。
仕事ばっかりやってる割には捻くれた息子でもない、不思議な関係で。
坂本が金が欲しいと言えば何も聞かずに札束を渡す親馬鹿満載の家庭だった。
そのおかげで今の俺と松岡があるんだけど。
同居するといちいち五月蝿いから、とアパートの一室を借りて。
金は出世払いで返してくれればいいから、とあっさりと。
保証人、敷金、礼金は全て坂本の両親持ち。
これほんとにいいのあにぃ、と不安そうに首を傾げる松岡に俺はただ頷くしかなかった。
それから普通に二人暮らしが始まって。
大雑把な俺と細かい松岡の同居生活は圧倒的に松岡主導権保持の元で過ぎていく。
5歳なのにしっかりしてるのねぇ、と近所での評判はよく。
満更でもない松岡はますます張り切った。
おれ、あにぃとけっこんしてしぬまでめんどうみる!という問題発言をしたのもこの頃だ。
結婚の意味を1時間かけて説明して、真実を悟った時の松岡の落胆っぷりは目も当てられないほどだった。
何でそんなこと考えたんだよと問えば、だってあにぃひとりにしてたらのたれじんじゃいそうだったんだもんなんていう失礼な返事が返ってきたっけか。
よく覚えてるなぁ俺も。
否定しても否定してもしつこい松岡の言葉に面倒くさがりの俺が妥協してるばかりだったけど。
居心地は案外悪くはないから、ここに落ち着いていた。
あの事件が起きるまでは。
大切な弟をただ守りたかった俺と。
守られた時の代償をいつまでも引きずるアイツと。
相手への想いの真っ直ぐさは、お互い憎いほどに似ていた。
悲しそうな顔をさせるくらいなら、離れようと思った。
・・・・・・あまりの飯の美味さにたまに帰ってきちゃうんだけど。
「兄ぃ!」
バタバタと足音を立てて玄関に走ってくる松岡によう、と挨拶すれば。
ぷわっと広がる笑顔と、安堵の溜め息。
「2週間も家空けてどこ行ったのかと思ったでしょ!出かける時はメモくらい残してってよね心配だから!まぁまた仲間と海にでも行ってたんだろうから気にはしてなかったけどさ!」
ふにょん、と尖った唇から止め処なく零れるお小言にはいはい、と適当な相槌を打つ。
また聞いてないんだからーと膨れながらも、楽しそうな松岡。
いつ帰ってきても歓迎はされるんだな。
っていうか、弟に出迎えられたって気がしない。
例えるならば・・・そう。
「・・・お前は俺の妻かよ」
ぼそり、と呟けば、内容までは聞こえないにしろ何かが耳に入ったのか、ん?と尋ねるように声を返す松岡。
紫エプロン装着。
手にはお玉。
こいつがもっと可愛くて華奢な女の子だったら嬉しいのに。
なんてことを思いながら、なんでもない、と言って家に上がった。
居間のソファにどかり、と座って。
キッチンに向かった松岡の背中を見る。
傍のテーブルの上には二人分の食器が並べられていて。
まるで俺が帰って来るのが分かっていたかのように。
「・・・言ったっけ?俺今日帰ってくるって」
声をかければ、両手に皿を持った松岡が顔を覗かせる。
ほわりと漂う香りに、ぐぅとお腹が音を立てた。
にひ、と松岡の顔が得意げに変わる。
「俺くらいになるとね、兄ぃがいつ位に戻ってくるかなんてお見通しなわけよ!ホラ、冷めちゃうから席着いて!」
「あいあい」
むくりと起き出してイスに腰掛ければ。
俺の大好物が所狭しと並んでいた。
いつもそうだけど、これだけ偶然が続くと驚く。
「・・・・・・松岡」
ビックリしてヤツの顔を覗けば。
だんだんと頬を赤く染めながら、アヒル口は。
「・・・別に、兄ぃが帰ってきそうなところを見計らって好きなもの作ってるわけじゃないから!これ、俺も大好きだし!!」
勢い良くそう言って、いただきまーすと早口で唱えるとガツガツ食べ始める。
耳まで真っ赤に染まっているコイツがかわいい。
本当に、素直じゃない可愛い弟だ。
「しっかしいつもこんだけ大量に作って、俺が帰ってこなかったらどうすんだよ」
俺は自分で言うのもなんだけど良く食べる。
2人前は朝飯前にぺろりと。
だから作る量はかなり多くなるのだ。
それをさらりと出してくるのを見ると、一人分の量では作っていないようで。
いつものことながら今更気づいて、まさか捨ててないだろうな?と問い詰めれば、んな勿体無いことしないって!とぶんぶん首を横に振る。
「お隣さんに差し入れてるから大丈夫よ」
「お隣さん?」
「あぁ、兄ぃいなかったっけ。ウチのバンドのボーカルくん、長瀬っていうんだけどね、ソイツが2週間前に隣に引っ越してきたの。よく食うからさ」
「・・・ふぅん」
相槌を打って、俺ももぐもぐと口を動かす。
しばらく食ってないうちにまた腕を上げた気がするな。
「美味い?」
「おう、美味ぇ」
「よかった!まだまだあるからたくさん食ってよ!」
にっこにこしながらいそいそと俺の取り皿に料理を盛る松岡。
やっぱ、妻っぽい。
はしゃぎ過ぎたのか、その後の晩酌でいつもより早く酔いが回った松岡は先に寝る、と言い残して布団にもぐりこんだ。
俺は一人で酒を口に含む。
急に静かになってしまった空間。
眠っている松岡を頬杖つきながら見て、また一口。
2週間前に越してきたのだと、言っていたお隣さんに興味を持ちつつ。
ヤツが越してくる前はどうしていたんだろうか、と思う。
俺が家を出たり戻ったりし始めたのは、もう5年も前になる。
帰ってくれば今日みたいに美味い飯が用意されていて、俺が満足するほどの量で。
慌てて作るわけでもなしに出てくる料理。
気ぃ使いの性格。
でっかい体を小さく丸めて四人がけのテーブルで頬杖をつき、ラップのかかった料理を寂しそうに見つめる松岡が容易に想像できてしまった。
・・・・・・・・・・・・・可哀想なこと、してんのかも。
俺が帰ってくればあんだけはしゃいで。
料理を美味いって言ってやれば嬉しそうに笑って。
過剰反応にも思えるその行動は寂しさからきてるんだろうな、なんて。
思いながらまた口に酒を運んだ。
本当は傍に居てやりたい。
コイツが寂しがり屋だってことはよく知ってる。
だけど、傍に居れば居るほど松岡を苦しめている気がするんだ。
俺の背中にある傷。
松岡は服で見えないはずのそれを時折辛そうに見つめるから。
そんなことしたって昔には戻れないし、傷だって消えやしないのに。
ぴーんぽーん
インターホンが鳴って。
これ出てもいいのかななんて戸惑いつつも、そういやここ俺の家じゃんと思い直して応答する。
「はいはーい」
がちゃり、とドアを開ければ。
松岡に匹敵するようなでかい図体の、しかもちょっと強面の男が突っ立っててビビった。
手には買い物袋が握られている。
「あれ?家間違っちゃったかな俺」
おかしいなーマボ一人暮らしのはずだけど、と首を傾げて頭をガシガシ掻くソイツに。
ああさっき松岡が言ってたお隣さんってやつかな、と思う。
「君、長瀬・・・くん?」
恐る恐るそう問いただしてみれば。
「はいっ!俺、長瀬です!」
元気よくそう言い返されて、ぶは、と笑ってしまった。
何コイツ。
でかいのに子供みたいでやんの。
「あの、マボの知り合いの方ですか?」
「あー・・・うん。一応兄貴」
「兄貴!マボに兄貴いたんだ!すげー知らなかったー!」
何がすげーなのか分からない。
誰にでも兄貴がいる可能性はあるだろう。
冷静にそう突っ込めば、あーそういやそうっすねぇと抜けた答えが返ってきた。
このテンポといいボケっぷりといい、知り合いを思い出すな。
じゃあなーって手を振ってふらりと居なくなった、アイツによく似てる。
っていうかさっきからマボマボ言ってんのは何だ?
松岡のあだ名にしては珍しく可愛らしいけど。
「マボのお兄さん、名前、何ていうんですか?」
「山口。山口達也」
「山口くんですかーやまぐちヤマグチ・・・ぐっさん、ですね!」
「・・・・・・はぁ」
名前を言うなり変なあだ名をつけられた。
勝手に納得しているところを見ると、松岡も同じように突然命名されて良い悪い関係なく呼ばれてるんだろうな。
しかも兄弟なのに苗字が違うってことに気づいてないし。
普通そこ突っ込むところじゃないの?
「長瀬くんは、」
「あ、呼び捨てでいいっすよ。マボのお兄さんだったら確実に年上だし」
「・・・りょーかい。長瀬は一体何の用で来たんだ?」
「そうだ!俺ね、マボにいっつも飯ご馳走してもらってるんっすけど、今日来るの遅いからどうしたのかなーって思って来たんです!」
松岡を心配しているのか、それとも松岡の作る料理を心配しているのか。
多分後者だろうその思考に溜め息。
「・・・申し訳ないんだけど今日の料理は全部俺の腹ん中だ」
「えええええええ?!!!!」
そんなー俺今日飯抜きっすかー?!と悲しそうにする長瀬。
勝手な物言いだけど、あまりにも真剣なもんだから可哀想になってくる。
冷蔵庫の中に何か残ってないかな、と後ろを向けば。
もそり、と起き出して来た松岡と鉢合わせた。
バタバタバタ、と足音を立てて玄関に来るなり、息を大量に吸い込んで。
「くぉの長瀬コラいちいちいちいち声でかくて五月蝿ぇんだよせっかく寝てたのに起きちゃったじゃねぇか!!!」
完全八つ当たりのような、それでいてまぁ正論な文句。
しかし、長瀬は落ち込むどころかぱぁっと顔を輝かせた。
「マボ!マボ飯食いに来ました俺ー!腹減ったー!」
「知るか!今日は兄ぃが帰ってきたから全部食べた後だっつーの!」
「酷い!マボは俺に飢え死にしろって言いたいんっすか?!」
「一日しかも夜ご飯抜いたところで飢え死にした奴なんかいねぇから安心しろ!」
「俺は死ぬっす!」
「死なねぇよ!」
すっぱーんと長瀬の頭にツッコミが決まる。
ああそうそう。
そうやって突っ込んでやりたかったんだコイツを。
横でそう思いながらスッキリする俺。
「俺今日珍しく材料買って来たんっすからなんか作ってくださいよー」
困ったように眉を曲げておねだり。
敬語を使っている辺り松岡よりも年下なんだろう。
そして俺は知っている。
松岡は年下を無碍にするのが嫌いだということを。
「・・・あーハイハイわかったわかったからんな顔すんな。作ってやるからとりあえず上がれ」
とうとう折れた松岡に、長瀬は満面の笑みを浮かべて買い物袋を差し出した。
「あれ、アンタも一緒だったの?」
長瀬の巨体で隠れていたらしい人を目ざとく見つけて松岡が声をかけた。
ぉん、と出した声の色に何かが蘇る。
おいちょっと待て。
こんなところにアイツが居るわけ・・・
「あれ、山口やん」
「・・・シゲ」
元気やったかー?とのほほんと言われ、思わず脱力。
横ではえ、兄ぃこの人と知り合いなの?と何故か慌てる松岡。
知り合いっていうか。
「俺の頼んだチャーギョー勝手に食った食われたの仲」
「ぉん。僕が食った。そんで山口がキレて思いっきり吹っ飛ばされた。そんな関係や」
「どんな関係だよ犯罪じゃねぇか!!!!!」
松岡の突っ込みにキョトンとして、首を傾げるシゲ。
「・・・・・・どっちが?」
「そりゃもちろん無断で食った方でしょ。ね、兄ぃ」
「もちろん」
「やって腹ペコの僕の前にチャーギョーがあったら思わず高速で食うてまうっちゅーねん」
「その気持ち分かるー!」
「長瀬お前は賛同しなくて良いからごちゃごちゃになるから。な?」
ぱすぱすと背中を叩きながら言えば、えーだってーと文句を言うからチョークスリーパーで黙らせた。
ほんのちょっと締めただけだけど、ヤツを黙らせるには十分だったらしい。
「お前はええ子やなぁ長瀬ぇ」
「そこ間違ったこと言ってんのに褒めないの!!」
長瀬の頭を撫でるシゲに容赦なく松岡のデコツッコミが決まる。
それが、俺の安心の始まり。
**********************
「あれ、山口やん」
すぐ隣から声がして、その声色で誰だかわかってしまったので顔も見ずに。
「よーシゲ」
ひらひらと手を動かしてみれば、ひょこひょこと寄ってきた。
隣に来たから顔を見る。
あら、お仕事煮詰まってますって顔、してんね。
「傍から見るとでかい子どもやな」
「シゲさんは売れない作家だな」
「うっさい。一応売れてますからー」
「本名でやってんの?ぜんっぜん見ないんだけど城島茂さん」
「ちゃうもん。本名ちゃう。バレたら困るから」
「バレたら困る?」
「ぉん。病院の診察とかー友達に呼ばれた時とかー迷子センターの呼び出しとかー」
「・・・最初はともかく、後の二つはちょっとおかしいんじゃない?」
「何でやねん」
「シゲさん、友達少なそうだし」
「・・・ほっとけや」
結構図星なところを付いてしまったらしく、拗ねるシゲ。
ま、この人が拗ねるなんてアイツが拗ねるのに比べたらさして問題ではない。
次の話を始めたら何事もなかったかのように受け答えしてくるし。
「迷子センターの呼び出しなんてもっとないでしょ。小さい子でもいない限り」
「いるんやなーそれが」
「え、シゲさん隠し子宣言?!」
「ちゃうちゃうちゃう!ウチのでっかい子どものこと」
でっかい子ども。
その言葉でお菓子両手ににっこにこ笑うでかいサイズのお隣さんを思い出した。
「・・・・・・あー、長瀬か」
「そう。アイツ未だに迷子んなってなぁ、デパートの中で放送かけられるんや」
「ぴんぽんぱんぽーん、ってか」
「お客様に迷子のお知らせをしますー城島茂さまー親戚の長瀬智也さまが探しておられますので2階迷子センターまでお越しくださいーってな」
「ふぅん・・・・・・って」
「そりゃお前が探されてんだろうがー!!」
「あだっ」
横から物凄い早さで突っ込みが入り、額を叩かれたシゲは額を押さえて見上げる。
顔を上げれば、買い物袋をわっしょりと抱えた松岡がいた。
かなりの手荷物状況だが、ここからどうやってシゲに突っ込んだのか。
どうやら顔面に手だけじゃなく買い物袋までぶち当たったらしい。
「おかえり松岡。今日はやけに早いんやなぁ」
「うん。長瀬が夜にウチ来るっつーから学校フケてきた」
しれっとそんなことを口走る。
「何いつの間にそんな悪になってんのお前。お兄ちゃんは悲しいぞー」
「いや、俺昔からこんなんじゃん兄ぃに似て」
「おい、こんなに誠実な兄を捕まえてサボりの理由に使うなよ」
「どこがだどこがっ出席日数足りなくてお情けで卒業させてもらったアンタの誠実さってどこなのよっ」
「嘘つかないとこ」
「ほーナルホド」
「そこ!納得しない!確かに嘘つかないのは誠実だけど今の話に関係性の端すら見えてこないっつの!」
「・・・・・・何の話してたっけ?」
「さぁ?」
「俺がフケてきたことに対して誠実じゃないだとかっつー話だろがーーーーっ!」
買い物袋を抱えて本気で大声を出す松岡。
その反応が面白いから俺とシゲがよくからかうんだっていうのに気付いてないのか。
「買い物終わって帰ってきたら兄ぃはいるし茂くんはいるし。珍しいこと続きでビックリするよ」
「だって俺家族だし」
「だって僕お隣さんやし」
しれっと言えば乗ってくるシゲ。
それを見た松岡はむがーっとテンションを上げる。
「兄ぃはいっつもふらっとどっか行っちゃっていないし茂くんは常に引きこもり状態でしょうが!真昼間のお外で見かけないコンビナンバーワンだよ!」
「・・・たっちゃん、これ褒め言葉?」
「おう、多分」
「どこら辺が褒め言葉なんだっつの!あー頭痛い。とりあえず二人とも上がって」
がちゃがちゃと鍵を開けて促す松岡に従って、俺とシゲは家の中に入った。
あー懐かしい。
3週間ぶりの家だー。
「せやの?」
「うん」
「懐かしむほど家の中の家具配置は変わってないよ兄ぃ」
「そうだっけか?」
尋ねればキッチンから覗かせた顔はうん、と頷く。
「アホやなーあ、でもこの暖簾は変わったで。なぁ松岡」
「うんそうそう古くなっちゃったから新しいのをねー・・・ってお前は俺の家の家具配置覚えるほど来すぎだっつの」
ぺしん、と再び突っ込み。
キッチンからわざわざシゲのいるところまで戻ってきての行為に感心する。
「やって、ウチにおるとご飯ないんやもーん」
「ないんやもーん、じゃなくて自分で作れよ!!」
「自炊道具すらあらへんがな」
「・・・・・・隣に越してくる前までどんな生活してたのアンタら」
「昔のクラスメイトの坂本くんの家で食っとった」
えへん、と威張るようにしてそう言いのける。
ああ、ここにも坂本の恩を買った男がいるんだな、なんて思いながら。
「じゃあ坂本先生のとこで食ってこいよ!」
「いややー松岡のご飯がええー」
子どものように駄々をこねるシゲの傍で満更でもなさそうな表情の松岡。
でも俺は知っている。
「っていうかシゲは動くのが疲れるから隣の方がいいんだろ?」
「ま、そうともいうー」
「ウチは行きつけの定食屋じゃねぇ帰れ!!!」
松岡は俺の意見をあっさり肯定したシゲの首根っこを掴んで、家の外へ放り出した。
ちょっぴりしょんぼりしてるのは気のせいじゃないだろう。
わざわざ突っ込みにくる律儀さといい、家の家具の配置を覚えるほど家の中に上げてることといい。
これは。
「お前、シゲのこと好きだろ」
試しにカマをかけてみればぼふっと音が立つくらい顔が真っ赤になる。
何その反応面白いな。
「ち、違うって!ホラ、さっきもあの人言ってたでしょ自炊道具もないってだから仕方なく、ホントに仕方なくよ?作ってやってんの!それだけ!!」
「ふぅーん」
「何よ兄ぃその信じてない目は!」
「べっつにぃー」
「ホントだってばーねぇちょっと兄ぃ信じてよー!」
「信じてる信じてるー」
「棒読みじゃんっ信じてくれてないじゃんっ!」
半分泣きそうになりながら必死に言い訳をする松岡の頭をぺし、と叩く。
ついでに背中もバシバシ叩いて。
「・・・・・・何?」
「いや、なんとなく?」
そう言えば、松岡は何よもーと呟きながらキッチンに戻っていった。
いや、ね。
俺、一応お前の兄貴なわけで。
他人をこんなに好いてる弟に律儀にモチ焼いたりしてるわけなんだけど。
知られると色々五月蝿いから黙っておく。
松岡なんかに弱味握られたらいつまでも長々と言われるから大変だ。
キッチンから包丁の鳴る音が聞こえてきて。
俺はソファにのんびり寝そべって。
この空間は無くしたくないよなぁ、なんて。
思いながらも、次の行き先を探していた。
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2007.2.27