伸ばした手が掴まれないことを知っているのに。 俺は必死にお前に向けて手を延ばす。 だけど、きっと。 矛盾してるのは分かってるけれど、それでも。 お前がしたいと望むことならば、俺は止めないんだろう。 何故なら。 俺には、延ばされないお前の手を無理矢理掴むことの出来る力があるからだ。 ■掴まれない右手と、掴み取る左手と。 きっかけは些細なこと。 そう、些細なことだった。 レーベルの面子の一人が喧嘩を吹っかけられて。 タイマン勝負の約束だったはずのそれが、仕組まれた喧嘩だった。 ソイツは真っ直ぐ病院送り。 他のメンバーがそれを章吉に伝えた。 そんだけ。 けれど、ヤツの怒りをお買い上げするのには十分な理由でもあり。 わかった、と読んでいた雑誌を乱暴にぽいと放り投げて言葉少なげに頷く章吉の表情は酷く、真剣で。 すたすたと足早に前に進んでいくその背中を、今この場所に居る全員が呆然と立ち尽くして見つめていた。 ・・・いや、訂正。 全員じゃなく、俺を除いて、だ。 名前を叫ぶように呼びながら、走って後を追う。 追って、右腕を掴んで、思いっきり自分の方向に引っ張った。 細身の身体は思ったよりあっさりと進むのを止めて、振り返り。 代わりに鋭い瞳が俺を射抜くように見つめてきたもんだから少し怯む。 普段は和み系の目、してて。 それを見てるとこっちまで和んでくんのに。 自分が一度決めたことを邪魔されると、途端にこれだ。 「んだコラ」 「待てよ。お前一人で行くのか?」 「これは俺一人の問題だっつってんだろ関わんな交わんな首突っ込むな馬鹿帰れ」 じゃあな、と適当な言葉で締めくくり、俺の手を乱暴に払う。 あーもう駄目だこれ。 一直線上しか見えてません、章吉ちゃん。 こうなったら誰が何言っても無理。 例え好きな女が行かないで!とか泣きながら言っちゃっても、無駄。 誰の手でも容赦なく振り払って、目の前の怒りの対象に真っ直ぐ突き進む。 漢だねぇ、この人は。 すたすたと歩き出した章吉の後を追いながら、問う。 「どこ行くんだよ」 「何で」 「気になんだよ」 「ついてくるから教えねぇ」 「ほら、俺と章吉ちゃんは一心同体でしょv」 「五月蝿ぇよ映児お前には関係ねぇっつってんだろ?!!」 章吉はぴたりと止まって、俺の方を向いて怒鳴った。 しーん、と静まり返る空間。 ・・・まぁ怒ると思いましたけど。 シリアスな状態の章吉ちゃんにふざけたことは通用しません。 あ、これ教訓ね。 守るつもり無いけど俺は。 「・・・・・・わーかったよ勝手にしろ」 「おう、勝手にする」 溜め息混じりにそう言えば、即答で返事。 そして俺から目を逸らし、方向転換して再び前へ。 一度も振り向くことの無いまま、その背中は闇の中へと消えていった。 ・・・ほら、ね。 全然、掴んでくれさえしねぇでやんの。 伸ばしたのに無駄じゃん、俺の右手。 わきわきと振り払われたそれを広げたり閉じたりしていると、わらわらとメンバーが集まってくる。 真っ先に口を開いたのは、裕介。 「何行かせてんの映児くん止めてよ!!」 「止めたよ。けど、行きたがってたから行かせた。そんだけだ」 「でも!」 「馬ぁ鹿。んな今にも死にそうな顔すんな、裕介」 「映児、くん」 「任せろ」 くしゃくしゃと乱暴に裕介の髪を掻き混ぜて、章吉がさっき居た場所に戻る。 どかっと音を立てて椅子に座り、床の上を見渡す。 えーと。 ・・・・・・あ、あった。 ひょいと拾い上げたのは、さっきまで章吉が読んでいた雑誌。 アイツも本当にどっか抜けてんだよな。 長い付き合いだっつーのに、俺の力のことすっぱり忘れ去ってるんだから。 ・・・まぁ。 だからこそ一緒に居るのかもしれねぇけど、さ。 左手に力を込めて、雑誌に向けて手を下ろす。 それに微かに触れた感触、追って、走る衝撃と記憶。 見えた場所は俺でも知っている、対立しているグループのアジトだった。 「・・・・・・あんの馬鹿」 一人じゃキツいって分かってるのに。 なのに、誰にも言わねぇでいつもいつも。 手にしていた雑誌を乱暴に床に投げ捨て、走り出す。 背中から裕介やメンバーの声がするけれど、それを振り切って。 大丈夫。 俺が何とかするから。 アイツをどうにか連れて帰って来るから。 そのために、この左手がある。 俺には、延ばされない手を無理矢理掴むことの出来る力があるから。 だから一番アイツの力になれる、傍に居てやれる。 もし、この力を素直じゃない章吉の心を読むためにくれたのなら感謝したい、とても。 ・・・誰だか知らねぇけど。 あの馬鹿を一人にしない術をくれて、ありがとう。 人生初のそんな想いを抱きながら。 俺はただひたすらに、前に向かって走り続けた。 >映児は特に章吉ちゃん絡みでこういうことが多いっていうのがある意味愛しい(え) |