走る激痛に、顔を歪める。
技量では絶対に負けない自信があった。
けれど、相手は自分の縦横二倍はありそうな巨体で。
力では到底敵わないのだと思い知らされる。
身体は物凄い力で壁に押し付けられ。
かは、と塊を吐き出すように息が漏れ、呼吸が難しくなると襲われる恐怖。




怖い。




一度も感じたことのなかった、恐れという感情が溢れ。
自分では気づかないほど自然に、涙が頬を伝っていた。
どうする。
どうすればいい。
頭に様々な考えを巡らせるが、大していいものは浮かばず。
だからといって諦めるという行為が悔しくて、悔しくて。
酸素を上手く吸えない身体の意識を保つことに必死になっていた、その時。
自分を押さえつけていた大柄な男が、真横に飛び。
同時に開放された身体がどすん、と音を立てて地面に落ちる。
元々丈夫ではない腰を強打して思わず顔を歪めるも、今一体何が起こったのか、井ノ原は懸命に理解しようと辺りを見渡した。



見渡して、呆けた。








「よぅ」








組織の中で同い年の、自分より年下のくせに背の高いでこっぴろ、もとい松岡が黒装束に身を包んで自分の前に立ち尽くしていたのだから。



「・・・・・・なんで、お前が・・・っ」
「あ?」
「何でお前がココに居るんだよ?!こんな奴ら俺一人で十分だって、」
「どこが十分だって?」
「・・・っまだやれんだよ!俺は!何でお前が来んだっつのわけわかんねぇよっ」
「馬ぁ鹿」



あくまでも意地を張る井ノ原の額にこつん、と松岡の拳が当たる。
痛ぇ、と当たった部分を押さえて、見上げれば。



「ダチを助けんのに、理由なんてねぇよ」



そう言って、口の端を片方上げ、笑窪を作った。








********








日が暮れる頃。
パチパチと音を立て燃え盛る炎の中で、組織が壊滅していく。
誰も居なくなった場所に、壁に身を擡げて座り込む少年が、二人。
どちらとも血だらけだ。
それが自分の血なのか、相手の血なのか、もう見当もつかなかったのだけれど。





「・・・おーわり、ってか」
「・・・・・・余計なこと、しやがって」
「・・・二人でやれば早ぇだろーが。時間短縮。完全制覇。言うことねぇだろ」
「・・・・・・」
「・・・イノ?」





俯いて無言になった井ノ原の顔を覗き込む。
ほんのり赤くなった目の端。
がしがしと乱暴に擦る動作に、松岡の顔が自然と緩んだ。





「なーに、泣いてんだか」
「・・・・・・」
「俺が助けに来たことに感動しちゃった?んはははは、いいのよー泣いても。男に貸すほど安かぁねぇけどダチのイノちゃんになら今だけ特別ご奉仕ってことで胸、開いてるぜー?」
「・・・・・・馬鹿野郎」





両手を広げわざとらしく笑っている松岡の胸元を拳でぐいっと押し。
顔を上げてキッと睨みつけ。






「目が痛いだけだ、俺は」






そう言って、にぃっと口の端を上げる。
それは松岡が井ノ原に出会って初めて見た笑顔だった。




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MURDERER設定で、出会った頃の二人。
一応10歳ってことになってますが、個人的には大人になった二人でもイケるなぁ、なんて。
2007.9.15