時間が、迫る。
その度に身体にピリ、と寒気が走り。
落ち着かなくなる自分に叱咤しながら、目を閉じた。





『大丈夫、大丈夫』





言い聞かせるように、小さく小さく呟いて。
呟いた口の中がカラカラに乾いている。
自分に自信がないわけじゃない。
きっと、全てに対して真剣に取り組めるだろう。
出来るだけのことは今までやってきた。
後悔は、ない。
それくらい頑張ってきたっていうのに、緊張は解けず。
握った掌に、汗。





『・・・弱ぇな、俺』





強くありたい。
誰にも頼らずに、強く。
そう願っているのに、心の中は裏腹で。
誰かに背中を押してもらえるのを待っている自分がいる。





自分の中の甘え。
最悪の事態。
思わぬ失敗。
それを、必死に振り払って。
振り払って振り払って振り払って、










「何柄もなく緊張してんだ、てめぇは」









声に。
少し上から降ってきた声に、目を開けた。







「・・・・・・松岡」





癖毛をツンツンに立てて。
わざと強面に自分を見せる、アヒル口。
くいっと片眉を上げ、つかつかと俺に近づいてくる。
でかい手がバシッと俺の背を叩き、そのまま肩を掴むようにして収まり。
ずっしりとかかる、ヤツの体重に顔を顰めれば。













「・・・大丈夫」





噛み締めるように、ゆったりと。
普段物凄いお喋りで、余計なことまで口走るくせに。
今日は、言葉少なに。





「お前なら、上手くやれる。俺が保障する」





眉間から力が抜け。
上がりかけてた肩が、落ち。
ふ、と身体の中に溜まっていた酸素が外に出る。
震えはまだ止まらずに、けれど緊張は薄れて。
真横にある顔を見ようとしたら、米神にゴン、と音を立ててヤツの頭が当たった。





「・・・痛ぇ」
「顔、見んな」
「何でだよ」
「お前を励ますっつー行為が恥ずかしくて仕方ねぇんだよ俺は」





俺こそ柄にもねぇや。
そう言って、松岡が苦笑するのを感じる。
隣にあるヤツの体温が、心地よくて。
当たっている頭に重さをかけようとしたら、離れた。





「馬ぁ鹿。甘えんな」
「・・・五月蝿ぇ」
「お前に肩貸すほど楽はしてねぇつもりだぞ」
「・・・知ってる」





知ってる。
コイツも頑張ってる。
きっと、俺と同じように緊張して、緊張して。
それを何度も乗り越えていったんだろう。





・・・・・・俺も、負けるわけにはいかねぇな。





「・・・行くわ、俺」
「おう」





肩に置いてあった手を解き。
横を見れば、くっきりした二重の瞳が俺を見返す。
目を離して歩き出そうとしたら、腕をガッと掴まれた。





「・・・なんだよ」
「忘れ物は?」
「ねぇよ」
「本当に?絶対だな??」





言われて、考え込み。





「・・・・・・無し!」





でかい声でそう叫び、手を振り払って足を進める。
進んで、止まり。
そのまま、息を吸い込んだ。





「サンキュー、松岡!」





後ろは、向けなかった。
すっげぇ、恥ずかしいの。
さっきの松岡の気持ちが痛いほどよく分かる。





「おう!」





からりと晴れたような高い声。
多分、笑顔で。
それを背中に受けながら、俺は前に向かって真っ直ぐ、足を進めた。


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シチュエーション不明。
舞台の前、とかかな。
どっちもふざけてない悪友は珍しいかもしれないです。

2007.9.15