俺たちの星から地球まで。 距離にして、約五百万キロメートル。 途方も無い距離ではあるが、行けない距離ではない。 井ノ原と俺は小さい頃からあの蒼い惑星に憧れてきた。 絶対あの場所に立って、自分たちの星を眺めてやる、と。 しかし、俺たちの住む惑星は酷く閉鎖的で。 地球に行きたいという意思を持てば、危険人物として牢獄行きになる。 だから俺たちは。 この星の主動源である機械のメンテナンスを行う仕事に就き、そのチャンスを伺っていた。 何年、何十年かかってもいい。 あの蒼い惑星に足を踏み入れてやる。 そんな、俺と井ノ原の想いは。 「行けないことも無いぜ」 そう、あっさりと言い放った井ノ原の上司、坂本昌行によって肯定されたのだった。 彼も実は俺たちと同じ想いを持った人だった。 しかし、上り詰めて行くうちに、この惑星も悪くは無いと思い始めたのだという。 蒼い惑星は憧れのまま、心に留めておくのがいい、と。 お前らは若いなぁ、と坂本くんは笑った。 どうやったら行けるの?!と興奮気味の俺と井ノ原をまぁまぁ、と大人の素振りで制して。 人気の無い場所にある部屋に連れて行かれて、中に入った瞬間驚いた。 そこに居た男は、俺の憧れていた技術者で。 それだけならまだしも、彼は。 文献上、もうこの世にはいないとされていた人だったから。 「・・・城島、茂?!」 「あら。僕の名前を知っとる子がおるんやね」 光栄やわ、と茂くんはふんわり微笑んだ。 知らないわけが無い。 名前ならきっと、この星の誰もが知っている。 だって、彼は。 この星の住人の中で地球に足を踏み入れた最初で最後の人物なのだから。 「なんや坂本。この子等もお前と一緒の気持ちの子か?」 「うん。だから放って置けなくてさ」 「そうか」 こくんと頷くと、茂くんは俺と井ノ原に近づいて、口を開いた。 「君ら、死ぬ気の覚悟があるか?」 あの蒼い惑星に足を踏み入れる代わりに。 もう、ここへは戻ってはこれない。 その覚悟は出来ているのか、と茂くんはそう言ったのだ。 俺と井ノ原は速攻で首を縦に振った。 未練なんてあるわけが無い。 俺も井ノ原も、この惑星じゃはみ出し者で。 至るところで蔑んだ視線や言葉を受けてきたのだ。 居場所が無いこんな星など、捨てたって構わなかった。 「じゃあ、ついておいで」 俺たちの覚悟を聞いた茂くんは、にっこりと微笑んで歩き出し。 坂本くんもその後に続いたから俺たちも急いで足を進めた。 *********** 着いた先は、メンテナンスをする建物の最深部。 そこは、全体が透き通った壁で出来ている部屋で。 蒼い惑星を自由に見渡すことが出来た。 すっげぇ、と二人同時に声を漏らしていたら、こっちだ、と坂本くんに誘導される。 そこにあったのは、4人は乗れる大きさの、それでも今あるものよりは確実に小さな救命ポットだった。 技術に技術を重ねて作られたそれは、探知機にも悟られない大きさで。 一度地球に向けて放てば絶対に見つからないことを保障する、と自信満々に坂本くんがそう言った。 同時に、これに乗ってしまえばこの星に俺たちの存在が消えてしまう。 だからさっき「死ぬ気の覚悟」があるかどうかを俺たちに尋ねたのか、と合点がいく。 井ノ原に目をやれば、同じタイミングでこっちを見た。 「俺は行くぞ」 「決まってんだろ。今更この星に戻る気もねぇよ」 あっさりと行く末が決まってしまった俺たちを見て、茂くんと坂本くんは笑う。 途端。 鳴り響くサイレンの音。 急に二人の表情が険しくなり、俺たちにも緊張が走る。 「早くポットに乗れ!」 坂本くんに急かされて、俺と井ノ原は慌ててポットに乗った。 迫ってくる足音。 軽く考えてもかなりの人数で。 このまま俺たちが打ち上げられたとしても、残っている二人はどうなるんだろう。 確実に捕獲され、最悪終身刑になる。 それは、馬鹿な俺たちでも知っていた。 「坂本くん!茂くん!早く乗って!!」 「一緒に逃げなきゃ、捕まる!!」 ガンガンとガラスを叩くも、茂くんも坂本くんも首を横に振るばかりで。 ただ手元の機械を弄り、打ち上げの準備をしていく。 じわじわとエンジンが入り、軽く浮いた感覚を感じ始め。 坂本くんが最後のレバーを手にかけた瞬間、部屋のドアが強くノックされる。 「坂本くんっ!」 「茂くんっ!!」 必死に名前を叫ぶも、届かずに。 「お前らだけで行け!!」 坂本くんが大声でそう言って、ぐいっとレバーを手前に引いた。 瞬間、ぐあっと思いっきりかかるGと、物凄い勢いで下がる景色。 早すぎて、一瞬にして坂本くんと茂くんの姿が見えなくなる。 そして。 振り返る間もなく、目の前に広がる、蒼。 不安も、後ろ髪を引く想いすらも。 その蒼に支配されて消えてなくなった。 惑星の人たちの脳裏から俺たちが消えるのも、こんな感じなんだろうか。 坂本くんや、茂くんの記憶からも。 そう思うと寂しくないわけは、無い。 けれど。 それ以上に好奇心が勝ってしまっている自分が居る。 あの星には何があるんだろう。 横に目をやれば、同じような目をした井ノ原がいて。 俺の目線に気づいたヤツは、にぃっと笑みを浮かべて手を上にかざした。 笑顔でその掌に、自分の掌を思い切りぶつければ。 遅れて込み上げる、嬉しさ。 「ひゃっほーーーう!!」 「地球!地球に行けるんだぜ俺たち!!」 「いえーーい!!あそこって何あっかな?!」 「ウミっていうでっかい水溜りがあるって兄ぃが言ってたぜ!」 「飯も美味いらしいって長野くんが言ってた!」 「すっげぇな!やりたいことがいっぱいだ!」 「そうだなー!」 はしゃいで、はしゃいで。 何がおかしいのか分からないのにゲラゲラ笑って。 勝手に疲れた俺と井ノ原はポットの中で仮眠をとることにした。 目を開ければ地球に居た、なんてロマンチックじゃねぇ?と柄にも無いことを口走った井ノ原。 うとうとと眠気にやられかけている顔で言う言葉じゃねぇだろ。 でも、俺も同感。 ・・・なんてことは言わずに馬ぁ鹿、と一言返して、目を閉じた。 ---------------------- 某カップ麺CMを見て、思いついた話。 何かこんな話を書きたいですが、設定が難しい。 まーくん→技術者の上の方の人。イノの上司 茂くん→惑星での時の人。殺されたと思われていたが実は生きていた 悪友→惑星の中でも一番下の階級の人間。地球に憧れている こんな感じで。 2007.9.15 |